
「別れ」を再定義する葬祭用品メーカーの視点が、伝統の継承を加速させる。三和物産が展開する、着物を糸に再生し自ら編む体験を売る「ベアキット」の取り組みから、現代に求められる情緒型循環経済の姿を読み解く。
キモノヤーンによる「ベアキット」予約販売の背景
石川県金沢市の葬祭用品メーカー、三和物産株式会社が、着物をアップサイクルした手芸糸「キモノヤーン」でクマのあみぐるみを制作できる「ベアキット」の予約販売を、2025年12月19日よりCreema SPRINGSにて開始した。
本プロジェクトの核心は、単なるリメイク品の提供にとどまらない。ユーザーが所有する思い出の着物を同社に送り、一本の糸へと加工して手元に戻す「オーダーヤーンキット」という仕組みを構築した点にある。完成する高さ約12cmのあみぐるみは、着物本来の色彩や手触りを宿し、個人の記憶を形にする象徴的なプロダクトとして設計されている。
「面」から「線」への還元。既存のリメイクと一線を画す独創性
同社の取り組みが既存の着物リメイク市場において際立っているのは、生地を「面」として切り貼りするのではなく、洗浄・裁断を経て一本の「糸」へと還元するプロセスにある。
この「糸(ヤーン)」化により、製品は圧倒的な可変性を獲得した。通常のバッグや小物への加工は一度形を決めれば修正が困難だが、糸であれば万が一ほつれても編み直すことが可能であり、将来的に別の形へと姿を変える余地も残されている。素材という本質に立ち返ることで、リメイク製品にありがちな「デザインの固定化」を排し、ユーザーが自らの手で思い出を編み上げるという「物語への参画」を実現しているのである。
死生観のリデザイン。葬祭用品メーカーが紡ぐ哲学
なぜ、葬祭用品メーカーがこの事業に心血を注ぐのか。その根底には、同社が掲げる「死生観のリデザイン」という一貫した哲学が存在する。
日本において「死」や「遺品」は、往々にしてタブー視され、負の側面として語られる。しかし、同社は別れを「つながりを実感する機会」と捉え直す。 「大切な人が愛用していたものを、クローゼットの奥で眠らせるのではなく、日々触れられる温かな存在へと昇華させたい」 この想いが、環境負荷の低減という文脈を超え、人々の喪失感を「創造性」へと転換する、一種のグリーフケアとしての側面を事業に付与している。
現代ビジネスが三和物産の「情緒的サステナビリティ」から学べること
三和物産の事例は、機能性や利便性だけで差別化が難しくなった現代のビジネスシーンにおいて、極めて重要な示唆を与えている。
第一に、未利用資源の情動的な再定義である。単なる廃棄予備軍であった着物を、家族の物語を運ぶ「高付加価値素材」へと変換した視点は、あらゆる業界のSDGs戦略に応用可能だ。
第二に、プロセスの共有によるエンゲージメントの深化である。完成品を売るのではなく、自身のルーツである着物を自らの手で再生させるプロセスを売る。これは、消費者がモノの背後にあるストーリーを重視する現代において、代替不可能な顧客体験となる。伝統を「糸」で繋ぎ、再び誰かの手で紡ぎ直す。同社が提示しているのは、歴史と個人の記憶が交差する、成熟社会にふさわしい「豊かな消費」の形に他ならない。



