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「見えないゴミ」1,000万トンの衝撃 不法投棄報告書が突きつける自治体の残存量ワーストランキング

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不法投棄ゴミ、1000万トン

「不法投棄は過去の遺物である」という甘い神話は、いま脆くも崩れ去ろうとしている。環境省が12月19日に公表した最新の調査結果を精査すれば、減少傾向を装う数字の裏で、特定地域に「負の遺産」として蓄積され続けるゴミの山と、実行者の筆頭に名を連ねる「排出事業者」の影という、直視すべき日本の“不都合な真実”が浮かび上がる。

報告書が暴いた令和の歪な構造と、衝撃の「残存量ワーストランキング」を解剖する。

 

表面的な「減少」の裏で積み上がる1,000万トンの不条理

2024年4月から2025年3月までの令和6年度に新たに判明した不法投棄は106件、投棄量は1.4万tとなった。ピーク時の平成10年度には1,197件、42.4万tもの事案が発覚していたことを考えれば、一見して環境意識の向上が進んでいるかのような錯覚に陥る。しかし、統計の表面だけをなぞるのはあまりに短絡的だ。我々が真に危惧すべきは、新規事案の数ではなく、累積された「残存量」という名の巨大な時限爆弾に他ならない。

令和6年度末時点で、いまだ国内には2,920件、量にして9,991,445tもの産業廃棄物が放置されたままだ。実に1,000万tに近いゴミが、人知れず我々の足元に「負のストック」として眠り続けている。この膨大な残量こそが、日本のサステナビリティの現在地を冷酷に示している。

 

不法投棄を圧倒する「不適正処理」という闇の深さ

さらに我々が直視しなければならないのは、氷山の一角である「不法投棄」の背後に控える「不適正処理」という巨大な影だ。令和6年度の不適正処理件数は113件と不法投棄件数(106件)と大差ないように見えるが、その処理量は59,926tに達し、不法投棄量(14,399t)の約4倍という規模に膨れ上がっている。

これは、形式的には許可業者に委託しながらも、実際には許可品目以外の廃棄物を混ぜる、あるいは不適切な方法で埋め立てるといった「グレーな処理」が蔓延している実態を物語っている。形式上の契約さえ結べば責任を果たしたと考える排出事業者の姿勢が、この膨大な不適正処理を支えているのだ。

 

建設業界の多重下請け構造が誘発する「背信」のメカニズム

実行者の正体に踏み込めば、事態はより深刻さを増す。令和6年度の新規案件106件のうち、排出事業者による投棄は35件と全体の33.0%を占め、実行者が判明している区分の中では依然として最大勢力である。この背景には、不法投棄の対象の約6割を占める建設系廃棄物の特異な構造がある。

建設現場における多重下請け構造の下では、元請け企業が表面上で「適正処理」を謳いながらも、末端の下請け業者には極端に低いコストでの処理を強いるケースが後を絶たない。追い詰められた末端の業者が「排出事業者」として、あるいは「無許可業者」として、闇夜に乗じて廃棄物を地中に埋める。不法投棄の実行者の3割が「不明」とされている点も、この複雑な下請け構造が責任の所在を曖昧にする「隠れ蓑」として機能している証左に他ならない。

 

累積する環境負債:ワースト5県が抱える「内訳」

不法投棄の真の恐ろしさは、その土地に残り続ける「残存量」にある。内訳を精査すると、上位5県だけで全国の残存量の過半数を占めるという歪な偏在が浮き彫りになる。

他を圧倒してワースト1位に君臨するのは、千葉県の4,009,684tである 。日本全体の残存量の約4割がこの一県に集中するという異常事態だ。県内では銚子市の1,530,001t、市原市の1,180,595tといった、単独の市で他県の総量を軽々と超える巨大な負の集積地が数字を押し上げている。

ワースト2位は、埼玉県の943,444tである 。鳩山町の202,602tや熊谷市の150,957tといった自治体に、都心の経済活動から吐き出された建設混合廃棄物などが今なお堆積している。

続いてワースト3位は愛知県の638,418t、ワースト4位は茨城県の544,188t、ワースト5位は福岡県の449,560tとなっている。茨城県のつくば市(168,494t)や福岡県の筑紫野市(398,472t)など、広大な土地の裏側で負のストックが放置されている事実は重い。

特定の地域が「日本のゴミ捨て場」と化しているこの実態は、企業のサプライチェーン管理が、意図せずとも特定地域への負担押し付けと環境差別を助長している可能性を突きつけている。

 

20年以上居座り続ける「世代を超えた負債」

これらのゴミは単に多いだけではない。その「居座り期間」の長さこそが本質的な絶望である。残存量1,000万tのうち、平成13年(2001年)以前に判明したものが全体の過半数を占めている。

これは「見つかったものの、20年以上経っても撤去できていないゴミ」が日本中に溢れていることを意味する。一度地中に埋められた廃棄物は、撤去に莫大な公金と時間を要するため、事実上の「負の固定資産」として次世代に継承されていく。排出事業者は、自社のゴミがこれらワースト自治体の、20年以上動かない「1トン」を構成していないと言い切れるだろうか。

 

行政代執行の限界と「逃げ得」を許す構造

最後に、行政対応の無力さを指摘しなければならない。「現に支障のおそれがある」とされる深刻な残存事案76件のうち、実際に行政代執行に着手できているのはわずか4件、量にして全体の約0.2%に過ぎない。

危険であると認知されていながらも、予算や実行者の特定不能といった壁によって、99%以上の危険なゴミが放置され続けているのが実態だ。新規案件でも実行者の34.9%が「不明」とされており、監視社会と言われる今日においても「逃げ得」を許す構造が温存されている。不法投棄は単なるマナー違反ではなく、土地の生態系を殺し、地域住民の健康を脅かす企業の背信行為である。

1,000万tもの残存量は、我々消費社会、そして何より社会的公器たる企業が、利益の影で積み上げてきた「未払いの負債」の総和なのである。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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