
鳥取市内で暮らす大人2人が、夕食を終えて間もない時間に体調の異変を訴えた。鍋を食べてからおよそ30分後、急激な吐き気と下痢が始まったという。市内の医療機関を受診した2人について、山陰中央新報などの報道によると、原因は食卓にのぼった“ニラ”だと思われていた葉だった。
医療機関から翌日、鳥取市保健所に「ニラと似た植物を食べた可能性がある」と連絡が入り、調査が行われた。判明したのは、鍋に使われたのがスイセンの葉だったという事実だ。
2人はいずれも入院はしておらず、症状はすでに改善に向かっている。
家庭菜園で混ざり合う緑 “見慣れた葉”が引き起こした誤食
スイセンがどのように食卓へ紛れ込んだのか。関係者によると、患者の家族が管理する畑には、かつて植えていたニラが残っており、その近くでスイセンが自生していたという。
畑の一角で並んで生える二つの植物は、遠目にはあまり違いがなく、日常的に畑を使っていても気付きにくい。
葉を摘んだ当時、香りを確かめることはなかったとみられ、外見だけを頼りに“ニラ”として鍋に入れられた。穏やかな夕食にのぼった一皿が、思いも寄らない中毒症状を引き起こすことになった。
“におい”こそ最大の手がかり 似て非なるニラとスイセン
スイセンは観賞用として広く植えられているが、葉や球根に強い毒性がある。とりわけ、葉はニラと形が似ており、毎年のように誤食が起きている。
保健所によると、見分ける上で決定的なのは「におい」である。
ニラは切った瞬間に特有の刺激臭が広がるが、スイセンにはそれがない。
また、スイセンの葉はやや幅が広く、厚みがあるとされる。しかし、畑で混ざって生育していると、外見だけでは判断が難しいことが多い。
過去には誤出荷も “買ったものだから安心”は通用しない現実
今回のように家庭菜園で混合して育つケースだけでなく、過去にはスイセンが道の駅に誤って出荷された例や、八百屋が雑木林で採った葉をニラとして販売した事例も報告されている。
見分けの難しさは家庭の内側に留まらず、流通の現場でも事故につながる恐れがある。
鳥取市保健所管内でスイセンによる食中毒が確認されたのは2018年以来、7年ぶりだ。地域で久しぶりに起きた今回の事案は、改めて日常に潜む“植物の誤認”の危険を浮き彫りにしている。
「採らない・食べない・売らない・人にあげない」
基本に立ち返ることが唯一の予防策だ。
鳥取市保健所は、食用と確信できない植物を扱う際の基本として、
「採らない」「食べない」「売らない」「人にあげない」
という原則を繰り返し呼びかけている。
家庭菜園や庭先で見慣れた緑が、必ずしも安全とは限らない。スイセンの葉は、鍋や炒め物に混ざればニラとの区別がさらに難しくなる。
今回の食中毒は、誰にとっても起こり得る“身近な危険”を知らせる教訓となりそうだ。



