
年末の風物詩として続いてきた企業の忘年会が、近年、明確に曲がり角を迎えている。若者の参加意欲の低下というイメージが広がる一方で、参加したい層と距離を置きたい層の分断も指摘される。また、飲み会文化そのものへの評価が揺らぎ、さらに飲酒強要をめぐる法的リスクも企業に重くのしかかり始めた。現状と課題を複数の調査と判例から整理する。
若者の参加意欲は“二極化”
忘年会に対するスタンスは、若い世代の中でも割れている。ある調査では、忘年会に「積極的に参加したい」と答えた人は約3割にとどまり、一方で「仕方なく参加している」「時間やお金の無駄だと感じる」という否定的な声も確認された。
しかし、別の調査では20代の6〜7割が「参加したい」「どちらかといえば参加したい」と回答しており、年代別で最も参加意欲が高い傾向が示された。つまり、若者の間で飲み会離れが進んでいるという印象は残るものの、実態としては歓迎する層と距離を置きたい層が明確に二極化している。
また、企業側の対応にも変化がみられる。ある地域調査では、2025年
の忘・新年会開催率は55.8%と、コロナ禍後で初めて減少に転じた。開催しない理由としては「開催ニーズが高くない」が最も多く、従業員側の温度感が企業判断を左右している。
飲みニケーションの価値は分岐
飲みニケーションが人間関係の構築に役立つという意見は根強い。管理職を中心に、飲食の場で本音を語り合うことが信頼形成につながると考える層は依然多い。
しかし一方で、アルコールを前提とした場に苦手意識をもつ層や、業務外の拘束を避けたい層も増えている。さらに、多様な働き方が広がる中では、飲食を中心にした交流だけでは十分なコミュニケーションを担保できないという指摘もある。したがって、カフェでの少人数交流、オンライン懇親会、ランチ会など、複数のスタイルを選べる環境づくりが求められている。
“アルハラ”経験は4割超 ガイドラインなしの職場が7割
飲酒強要、いわゆるアルハラへの懸念も高まっている。ある調査では、忘年会でアルハラを「見聞きした・受けた」経験があると答えた人は43.3%に達した。さらに、そのような場面に直面した際の対応として「特に何もしなかった」と答えた人が最も多く、違和感を抱えながらもその場をやり過ごしている実態が浮かび上がる。
また、飲み会に関するルールが「明文化されていない」と回答した職場は68%にのぼる。「暗黙のルールのみ」が12.33%、「明確なルールがある」が5.67%にすぎず、7割近くの職場では基準が存在しない。したがって、トラブル回避のための環境整備は追いついておらず、アルハラが発生する土壌が残っているといえる。
忘年会が職場関係に与える影響は評価分かれる
忘年会が職場の生産性や関係性に寄与しているかについても評価は分かれる。ある調査では「プラスに働く」と答えた人が27.3%、「マイナスに働く」が11.7%であったが、「どちらともいえない」が61%と最多だった。
すなわち、飲み会文化をどのように捉えるかは企業によって判断が大きく異なり、従業員側の実感も統一的ではない。単純に賛否で語れない状況が続いている。
法的リスクが高まる“アルハラ” 企業が背負う損害賠償の現実
飲酒強要は、もはや「職場の慣習」という説明では済まされない。実際に訴訟に発展し、企業が責任を負う事例も出ている。
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件
東京高裁は2013年2月27日の判決で、上司が部下に飲酒を強要し、深夜に叱責や暴言を含むメールや留守番電話を繰り返した行為を、不法行為と認定した。問題となった行為には、飲めないと断る部下に対し「俺の酒は飲めないのか」と迫る言動や、「酒は吐けば飲める」として嘔吐後も飲酒を続けさせた行為などが含まれた。
また、前日の深酒で体調不良を訴える部下に運転を強いた点も重く見られた。裁判所は、これらが職務上の優越的な地位を背景にしたハラスメントであると判断し、会社の使用者責任を認め、上司と会社に150万円の慰謝料支払いを命じた。
もっとも、パワハラ行為と精神疾患との因果関係は認められず、精神疾患による自然退職無効の主張は退けられた。それでも、業務時間外の飲み会やメールであっても、業務と関連していれば企業責任が生じ得ることを示した重要な判例である。
企業が想定すべきリスク
この判例は、企業に対し次のようなリスクを突き付けている。
・飲み会が勤務時間外であっても、企業は安全配慮義務や職場環境整備義務から逃れられない
・飲酒強要や不適切な言動は損害賠償請求の対象となり得る
・問題が表面化すれば企業の信用失墜につながる
したがって、飲み会文化を維持するかどうかは企業の判断だが、開催する以上は管理職教育や明確なルール作りが不可欠である。
忘年会はこれからどこへ向かうのか
若者の価値観の変化、職場の多様化、そして法的リスクの高まり。忘年会は「全員が楽しむべき職場イベント」から、「希望者が参加する選択的な交流のひとつ」へと性質を変えつつある。
企業が取り組むべきは、飲み会を軸にしたコミュニケーションを維持することではなく、それぞれの従業員が安心できる環境づくりである。参加・不参加の選択を尊重し、アルコール以外の交流手段を用意し、ハラスメントを防ぐための相談体制とルールを整備することが求められている。
令和の職場文化は、いま再編の時期を迎えている。



