
中国国際航空が春節期間を含む日本便の減便に踏み切った。政治緊張による渡航自粛で欠航が広がり、年2兆円規模の中国人消費に影が差し始めている。
中国国際航空が日本便を相次いで減便 CA163・CA434など主要路線が縮小へ
薄曇りの北京首都空港。午後の光がうっすらと機体の曲線を照らし、滑走路に整然と並ぶ中国国際航空のロゴが静かに浮かび上がる。動き続ける空港の喧騒とは対照的に、出発案内板から日本行きの便名が静かに消えていく光景があった。
朝日新聞によると、中国国際航空は今月末から来年3月にかけて日本発着便を大幅に減便する。上海発大阪着CA163便は毎日運航から金土のみへ、東京発重慶着CA434便も12月以降は週4便へ縮小される。担当者は「機材繰りの都合」と説明するが、社内関係者は“昨今の政治状況を踏まえた判断”だと語った。
さらに札幌/千歳〜北京便では減便措置が2026年3月まで延長される。春節を挟む長期の減便は、通常の機材調整では説明しづらく、政治的緊張が旅客需要に直接影を落とし始めている。
春節時期に深刻化する減便と欠航理由 中国政府の日本渡航自粛が影響か
北京・東単の大通りには春節飾りの赤が揺れ、街は祝祭ムードを取り戻しつつある。だが、その華やぎの裏で“日本行き”だけが冷たい空気に包まれていた。FNNプライムオンラインによると、中国政府は国民に対し日本への渡航自粛を呼びかけ、公務員の出張は相次いで取り消されている。
旅行会社の窓口では、日本行きの相談が減り、SNSには欠航通知が静かに積み重なる。
「春節の旅行が全部キャンセルになった」
「今の空気なら日本行きは避けたい」
一つの便名が消えるたび、その背後では何万人もの旅程と多額の消費が一度に霧散していく。減便が“紙の上の数字”ではなく、地域経済の循環そのものを止めかねないことが可視化され始めた。
中国人観光客の減少がもたらす光と影
今回の減便は、日本の観光地に複雑な変化をもたらした。京都の旧市街では早朝の石畳に観光客の列が消え、地元の住民は「街の呼吸が戻った」と語る。国内の旅行者も「宿が取りやすくなった」「観光地が落ち着いた」との声を上げている。治安面での改善に触れる意見も多く、繁華街では「夜の雰囲気が落ち着いた」との実感が出ている。
一方で、その静けさは経済の停滞を意味する。大阪・心斎橋では免税店の売上が落ち込み、北海道ではスキー場への予約が鈍化した。九州でも空港利用者の減少が目に見えてきている。
観光公害の緩和と地域経済の停滞が同時に進むという二面性が、今回の減便の特徴である。
SNSで広がる温度差 日本側では“歓迎論”が多数派に
SNS上では、中国人旅行者のキャンセル報告が相次ぐ一方、日本側ではまったく異なる空気が広がっている。「観光地が空いて旅行しやすい」「治安が戻った」といった歓迎的な声が目立ち、特に都市部ほど肯定的な反応が多い。
X(旧Twitter)では、
「京都が静かになって歩きやすい」
「国内客が旅行しやすい環境になった」
「観光のマナー問題が減って街が落ち着いた」
といった投稿が繰り返し共有されており、こうした意見が“議論の多数派”として存在しているのが今回の特徴だ。
中国SNSでは不安、日本側SNSでは歓迎――
両国の“温度差”が、そのまま今回の減便の構造を映し出している。
【比較で読み解く独自分析】コロナ禍とも尖閣問題とも違う“特異な減便”
今回の減便をめぐる背景は、過去の局面と比較することでその特異性が鮮明になる。
■2020年コロナ禍とは性質が異なる
コロナ禍では感染症という不可抗力が国境を閉ざした。しかし今回は、
感染ではなく、政治的メッセージが旅客の行動を止めている。
国策として公務員の出張が抑制されている点は、回復が政治の動きに左右されることを示す。
■尖閣問題(2012年)との違いは“依存度の高さ”
2012年には旅行需要が急減したが、当時の訪日中国人は140万人規模。
現在は922万人――依存度は6倍以上。
地方空港・商業施設・宿泊業まで、中国客の減少は即時性の高い影響をもたらす。
■回復曲線はV字ではなくU字の可能性
政治・航空供給・SNS空気の三つが連動する今回の局面は、回復に時間を要する可能性がある。特に、中国客比率の高い北海道・沖縄・九州は、回復が平坦になるとの見方が広がっている。
“2兆円”という打撃の重さ 企業規模・税収・国家予算で見る
中国人観光客の年間消費額はおよそ 2兆円。
この数字の重さは、産業・税収・財政の視点で見ると輪郭がはっきりする。
カルビー、サッポロHD、東急不動産HDといった大手企業の年間売上とほぼ同額であり、大企業1社が丸ごと消える規模に相当する。また、日本の消費税収は年間約25兆円で、2兆円はその“ほぼ1カ月分”。
国の財政に置き換えても、決して小さな数字ではない。
さらに、SNS上ではこども家庭庁の年間予算7兆円をめぐり、「見直せば2兆円規模の穴埋めは容易だ」との声が多数派として広がっている。政策の是非は別として、観光減の“代替財源”として語られるほど、2兆円という数字が日常的な議論に浸透していることは象徴的だ。
今後の見通しと日本観光が向き合う課題
春節需要が縮むことで、インバウンド回復シナリオは再考を迫られる。中国依存の高い地域では、路線維持や消費喚起策が課題になる。一方で、東南アジアや欧米など新たな市場を開拓する動きも広がっている。
観光地の静けさと経済の空白――その両方をどう埋めるかが、2025年の日本の観光政策に問われている。情勢が和らぎ往来が戻る可能性は残されているものの、今回の減便は“観光の依存構造をどう見直すか”という課題を突き付けている。



