
ソウル・蚕室室内体育館に差し込む柔らかなライトが、久しぶりに約1000人のファンの前に立つJINの姿を照らしていた。兵役を終え、再び笑顔を向ける彼の表情には安堵と感謝が浮かんでいた。
しかし、その温かな空気が凍りつくように急変したのは、一人の日本人女性の行動がきっかけだった。韓国メディアによると、JINの頬に突然キスをした50代の日本人女性が強制わいせつ容疑で在宅起訴された。
事件の経緯、捜査の流れ、そして女性の身柄が今後どう扱われるのか。司法判断を前にした現在地を、当日の空気感とともに追った。
兵役明けイベントの熱気と、止まった時間
2024年6月13日、ソウル市松坡区の蚕室室内体育館。
JINが会場に姿を現すと、広い空間にざわめきと拍手が渦を巻いた。長い兵役期間を経て、ようやくファンの前に戻ってきた瞬間だった。
JINは一人ひとりの目を見つめ、ゆっくりと歩きながらハグを交わしていく。
しかし、その温かな空気を切り裂くように、一瞬の出来事が起きた。
50代の日本人女性が、ハグを終えたあと、身体を寄せてJINの頬へ突然キスをしたのだ。
驚いたJINの顔が映し出され、スタッフがすぐに動き始める。
会場全体が固まるように静まり返り、ファンの間には「今何が起きたのか」という困惑が広がった。
その瞬間がSNSで拡散されると、ファンダムと韓国世論は一気に騒然とした。
「同意なき接触は明確な越境行為」「安全管理が不十分ではないか」
声は瞬く間に世界へ届いた。
“国外滞在”で一時中止となった捜査、再入国で動き出す
映像が波紋を呼ぶなか、ソウル松坡警察署は女性を強制わいせつ容疑で立件し、出頭を求めた。しかし女性は事件後日本へ戻っており、韓国からの呼び出しに応じるまでに長い時間を要すると見られた。
韓国の捜査規則には「被疑者が2カ月以上外国に滞在し調査が困難な場合、捜査を一時中止できる」と定められている。この規定に基づき、今年3月、警察は捜査を中止した。
ところがその数カ月後、事態は一転する。女性が自ら韓国に入国し、警察に出頭したのである。
これにより捜査は再開され、松坡署は「容疑が認められる」と判断。2024年5月に事件を検察へ送致し、司法判断の段階へと進んだ。
司法が向き合う“同意なき接触” 在宅起訴の意味
ソウル東部地検は11月12日付で女性を在宅起訴した。在宅起訴は身柄拘束がないまま裁判に進む手続きだが、刑事責任を問うという点で重大な意味を持つ。
今回の事件が焦点とするのは、ファン文化の中に潜む“同意の境界線”だ。
かつてはスターがファンから突然抱きつかれたり、過度な接触を受けたりしても「仕方ない」「愛情表現の一種」と処理される時代があった。しかしSNS時代に入り、同意なき身体接触は明確に問題視されるようになった。
韓国国内では「もし加害者が男性なら扱いは同じだったのか」「国籍や性別による差があってはならない」といった議論が絶えず、今回の起訴は社会的な関心も集めている。
静かに活動を続けるJIN、揺れるファンの心
事件後も、JINは声を荒げることなく、予定されていた公式イベントやブランドの行事に淡々と参加している。落ち着いた態度は一貫しており、騒動に対して公の場で強い意見を述べることもない。
一方で、ファンコミュニティの反応は鋭い。
「彼の安全を最優先にしてほしい」
「接触型イベントの見直しが必要だ」
といった声が韓国のみならず世界的に広がっている。
今回の起訴により、事件は司法判断を待つ段階へ。裁判が下す結論は、K-POPイベントの在り方や“同意の線引き”を考える上で、新たな指標となる可能性がある。
判決後、女性の身柄はどうなるのか?
現在、女性は在宅のまま裁判を待っている。判決後に身柄がどう扱われるかは裁判所の判断次第で、処分の幅は広い。
韓国の強制わいせつの法定刑は「5年以下の懲役または1,000万ウォン以下の罰金」とされているが、今回の行為が“一瞬の接触”であったこと、被害者に身体的損傷がないこと、そして女性が自主的に警察へ出頭していることなどを踏まえると、最も可能性が高いのは罰金刑での終結だと見られる。
罰金刑であれば身柄拘束はなく、そのまま帰国することも可能である。
また、懲役が言い渡されても執行猶予が付く場合は収監されない。一方、実刑判決となれば判決の日に法廷で身柄を拘束され、そのまま刑務所へ向かうことになるものの、今回のケースで実刑が下される可能性は高くないと見られている。
ただし女性は外国人であるため、刑事処分とは別に韓国法務部が「国外退去」や「再入国禁止」といった行政措置を取る可能性もある。刑の内容や裁判所の判断によって、その後の扱いは大きく変わることになる。
いずれにしても、女性の身柄がどのような扱いを受けるのかを決めるのは、これから始まる裁判だ。ファンイベントで起きた一瞬の行為が、司法の場でどのように評価されるのか。韓国国内外がその行方を注視している。



