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元ソフトバンク・山下斐紹、再び逮捕 “天才捕手”が転げ落ちた道

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山下斐紹
山下斐紹氏 Xより

プロ野球界で「正捕手候補」として名を馳せた男が、再び法の網にかかった。福岡ソフトバンクホークスのドラフト1位で入団した元捕手・山下斐紹(やました・あやつぐ、32歳)が、公務執行妨害の疑いで逮捕された。名門・習志野高からプロの扉を開け、将来を嘱望された逸材は、なぜここまで転落したのか。出来事の経緯と、現役時代から続いた素行面の問題を見直す。

 

泥酔の末、救急隊員に暴行

事件が起きたのは11月7日深夜。名古屋市中川区の居酒屋で泥酔していた山下容疑者は、従業員の119番通報で駆けつけた救急隊員を両手で突き飛ばし、さらに蹴るなどの行為に及んだ疑いがもたれている。酔客として扱われたことに強く反発したとみられ、取り調べに対しては「知らない。何もやっていない」と否認している。だが、執行猶予中の身で再び騒動を起こした事実は重い。

2024年12月にはコカイン所持で逮捕・有罪判決を受けており、今回の件は実刑を避けにくい状況だ。

 

ドラ1捕手の出発とプロフィール

山下は北海道札幌市出身。身長179センチ、体重95キロ、右投左打。中学時代から強肩強打で名を上げ、千葉県の習志野高校では1年でベンチ入り、2年で正捕手に昇格した。

豪快なスイングで長打を量産し、高校通算本塁打は30本超。スローイングの初速と球離れの速さは特筆され、「打てる捕手」の最右翼と評された。2010年のドラフト会議ではソフトバンクから1位指名。背番号は22。同期には柳田悠岐や甲斐拓也、千賀滉大らが並び、“黄金ドラフト”の象徴として早期の一軍定着が期待された。体格・肩・打撃センスの三拍子がそろい、投手陣とのコミュニケーション能力にも潜在力があると見られていた。

 

素質に溺れた“問題児”の素顔

しかし、プロの長いシーズンを戦い抜くには、才能以上に自制と規律が求められる。入団後の山下は、集合時間の勘違いによる遅刻、首脳陣への軽口、先輩へのタメ口が目立ち、注意されても「マジっすか」と笑って受け流す場面が少なくなかった。

試合中の細部にも緩みがのぞき、投手への返球を山なりに投げてしまう、配球サインの出し直しに苛立ちを見せる、審判の判定に肩をすくめて不満を示す――捕手として最も大切な信頼を損なう仕草が積み重なった。ミーティング中にスマートフォンをいじり、コーチの話に集中しない姿を見た同僚は、「才能は本物だが意識が幼い」と首を振ったという。
対照的だったのが、同学年で台頭した甲斐拓也だ。甲斐は「自分は下手だから」と誰より早くグラウンドに出て、泥だらけになって基礎を繰り返した。努力型と天才肌――二人の差は、小さな積み重ねの差として徐々に成績に表れた。やがて山下はチーム内で浮いた存在となり、投手陣のミーティングでも発言が減少。首脳陣の評価も「素材型のまま止まっている」に変わっていった。
球団スタッフの間では「最初の注意で直れば才能は一気に開く」という期待もあったが、翌週には同じ遅刻が繰り返される悪循環が続いた。

捕手は配球や投手の心理を受け止める“司令塔”であり、信頼の綻びは翌日の先発起用にも影響する。若手投手が「今日は別の捕手で」と首脳陣に進言したこともあり、見えないところで彼はゆっくりと出番を失っていった。クラブハウスでの礼節や練習後の片付けといった小さな行動が、チーム文化に溶け込めていない証として記憶され、それが評価表の余白に積もった。

 

移籍、処分、そして引退

環境を変えての再起を期し、2017年オフに楽天イーグルスへ移籍。二軍戦では長打で存在感を示す試合もあったが、守備と配球の精度が安定せず、正捕手の座は遠かった。

2020年オフに戦力外通告を受け、中日ドラゴンズと育成契約で再挑戦。ところが2021年夏、感染対策で外食禁止が徹底されていた時期に飲食店を訪れ、10日間の自宅謹慎処分を科された。「また規律違反か」という失望が広がり、復帰後も一軍の扉は開かなかった。結局、2022年オフに現役引退。12年のキャリアは、光の瞬間よりも影のエピソードが上回る結末となった。
引退後、交友関係の“黒い噂”が広がり、違法薬物に手を出したとの情報も流れた。華やかな舞台を降り、注目が消えた日常で、プライドと空虚さが膨らんでいく。現役時代に見過ごしてきた自省の欠如は、立場を失ったのちに一気に露呈したのだろう。

 

才能に溺れた末路と球界への教訓

今回の再逮捕は、本人の過ちであると同時に、球界の構造的な課題をも照らし出す。引退後のセカンドキャリア支援は広がりつつあるが、孤立を防ぐ伴走や依存の芽を潰すメンタルケアは十分とは言い難い。若手が“才能”の看板に安住しないよう、育成段階から規律と対話を重ねる仕組みが要る。

山下の転落は、規律が才能を支える骨格であることを示す教訓だ。栄光の記憶にしがみつくのではなく、過ちを正面から受け止めること。そこからしか再出発の道は開けない。
彼が再び社会に戻るとき、必要なのは特別な魔法ではない。時間を守る、約束を守る、努力を続ける――プロで最初に叩き込まれたはずの当たり前を、一歩目から積み直すことだ。ユニフォームではなく手錠をはめた日を、再起の起点に変えられるか。問われているのは才能ではなく、覚悟である。


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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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