
警視庁が外国人児童の人身取引事案として最年少となる12歳の少女を確認した。
東京・湯島の個室マッサージ店で働かされていたタイ国籍の少女をめぐり、労働基準法違反(最低年齢)の疑いで同店経営者の男が逮捕された。少女は母親に連れられ来日後、性的サービスを強要されたとみられ、深刻な人権侵害が浮き彫りになっている。
経営者を逮捕 12歳少女を従業員に
警視庁は5日、東京・湯島の個室マッサージ店「リラックスタイム」を経営する細野正之容疑者(51)=東京都調布市=を、労働基準法違反(最低年齢)容疑で逮捕した。捜査関係者によると、細野容疑者は今年夏ごろ、当時12歳のタイ国籍の少女を従業員として雇い、マッサージや接客業務をさせていた疑いが持たれている。
同店では、男性客に性的サービスを行っていたとして、タイ国籍の30代の女も風営法違反(禁止地域内営業)容疑などで逮捕された。警視庁は、店の経営実態を詳しく調べるとともに、外国人女性を斡旋する業者が関与していた可能性も視野に捜査を進めている。
母親と来日し行方不明に 少女は「学校に通いたい」
関係者によると、少女は今年6月、母親に連れられて来日した。来日直後から「リラックスタイム」で働かされ、マッサージに加え、性的サービスを指導されていたとみられる。
勤務開始から間もなく、母親は娘を残したまま姿を消したという。
少女はその後、湯島周辺に住むタイ人の大人たちに「タイに帰りたい」「中学校に通いたい」と相談していた。周囲からは「捕まる」と警告を受けたが、少女は「それでも帰りたい」と訴え、9月に東京出入国在留管理局(港区)を自ら訪ねて保護を求めたことで事件が明らかになった。
性的サービスを示唆する店の実態
事件の舞台となった店舗は、多国籍のマッサージ店が集まる湯島の雑居ビルの一角に入っていた。
公式サイトでは「タイ古式マッサージ」「症状や悩みに合わせた施術」などをうたい、一般的なリラクゼーション店を装っていたが、スタッフ紹介欄には胸元を露出した女性の写真が掲載されていた。
インターネット上の掲示板には、「性的サービスを受けられる」などとする書き込みが複数見つかっている。
警視庁の捜査幹部は「幼い子供が日本に連れてこられ、性的搾取を受けている。人権を無視した重大な人身取引事案だ」と語り、組織的な搾取の可能性を問題視している。
日本の人身取引対策、国際社会から厳しい目
人身取引は2000年に国連で採択された「人身取引議定書」で定義され、性的搾取や強制労働、臓器摘出を目的とした児童・成人の取引行為を禁じている。
日本政府も「国際社会が取り組むべき喫緊かつ共通の課題」として、令和4年に行動計画を策定し、外国人や児童の搾取事案の取り締まりを強化してきた。
しかし、各国の人身売買状況を分析する米国務省の報告書では、日本は2019年まで最高ランクだったが、2020年版で2番目に格下げされて以降、6年連続で据え置かれている。
25年版の報告書でも、外国人労働者や児童の性的搾取対策が「不十分」と指摘され、援助交際や路上売春、風俗業と結びつく悪質ホスト問題などが挙げられている。
“客側の無関心”にも警鐘
警視庁は今回の事件を、国内の性的搾取構造を浮き彫りにする象徴的な事案とみている。
捜査幹部は「客となる人にも、人身取引に加担している可能性を考えてほしい」と述べ、利用者側の意識にも問題があると警鐘を鳴らした。
性的搾取を伴う人身取引は、被害者が未成年である場合、本人の同意の有無を問わず犯罪として扱われる。
少女は現在、関係機関の支援のもと保護されており、「タイに帰って学校に通いたい」と話しているという。



