
花火大会の相次ぐ中止が、夏の観光シーズンに暗い影を落としている。埼玉県川越市では、人気イベント「小江戸川越花火大会」が2025年も開催を断念し、3年連続の中止となった。安全確保や会場周辺の開発事業が主な理由だが、背景には物価高騰や人手不足といった社会的課題も横たわる。全国的にも花火大会の開催可否を巡る判断が続くなか、地域経済や伝統技術への影響が懸念されている。
小江戸川越花火大会、3年連続の開催見送り 安全確保と産業団地への配慮で
埼玉県川越市の夏の風物詩として親しまれてきた「小江戸川越花火大会」について、同市と小江戸川越観光協会などで構成される観光事業実行委員会は2025年も開催を見送る方針を決定した。7月1日付の毎日新聞によると、会場となる安比奈親水公園近くに造成された産業団地への影響、加えて観覧者増加にともなう雑踏警備や交通整理の課題が重なり、安全な開催が困難と判断した。
同大会は例年8月に、安比奈親水公園と伊佐沼公園のいずれかで開催され、6000〜8000発の花火が打ち上げられ、約10万人が訪れる人気イベントであった。実行委員会は「大会の規模や形式を見直す必要がある」として、今後のあり方について検討を進めるとしている。
花火大会の中止相次ぐ 安全対策だけでなくインフラ整備・騒音配慮も影響
花火大会の中止は川越に限らない。長野県の「諏訪湖祭湖上花火大会」も、2025年は周辺道路の工事や人員配置の不足から開催を断念した。物理的な会場整備の遅れや、都市部では騒音への配慮、郊外では観客輸送の導線確保といった課題が顕在化している。
一方、東京都の「隅田川花火大会」や新潟県の「長岡まつり大花火大会」、秋田県の「大曲の花火」は今年も開催を予定しており、各地で人流の回復と地域経済の活性化が期待されている。
以下は、2025年の主要な花火大会の開催状況をまとめた一覧である。
2025年主な花火大会の開催状況(出典:各自治体・観光協会発表、報道資料)
大会名 | 開催時期 | 開催地 | 来場者数(平均) | 2025年開催の有無 | 中止理由(ある場合) |
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隅田川花火大会 | 7月下旬 | 東京都台東区・墨田区 | 95万人 | 開催予定 | – |
長岡まつり大花火大会 | 8月2・3日 | 新潟県長岡市 | 100万人 | 開催予定 | – |
大曲の花火 | 8月最終土曜 | 秋田県大仙市 | 70万人 | 開催予定 | – |
諏訪湖祭湖上花火大会 | 8月15日 | 長野県諏訪市 | 50万人 | 中止 | 会場周辺の道路工事や安全確保の困難 |
小江戸川越花火大会 | 8月中旬 | 埼玉県川越市 | 10万人 | 中止 | 来場者増加と産業団地への影響 |
花火師・煙火業者に打撃 資材高騰と受注減で経営圧迫
花火大会の中止は地域観光だけでなく、花火産業の根幹を揺るがす事態となっている。日本煙火協会によれば、花火玉に使用する火薬や金属材料の価格は近年高騰が続いており、特に輸入火薬は2〜3割値上がりしているという。そこへきて開催数の減少が重なり、「このままでは職人の技術継承すら困難になる」と危機感を示す関係者も多い。
関東地方で老舗とされる花火製造会社の担当者は、「昨年は10大会を請け負ったが、今年は6大会に減った。設備投資もままならない」と語る。イベント業者や会場整備に関わる警備・交通誘導業者なども影響を受けており、裾野の広い地域経済への打撃は計り知れない。
夏の花火が生み出す経済効果 宿泊・飲食・観光交通に波及
観光庁の「観光資源の経済波及効果」調査によると、1回の大規模花火大会が地域にもたらす経済効果は数億円規模に及ぶとされている。宿泊業、飲食業、土産物販売だけでなく、駅や周辺道路の公共インフラ使用料、観光交通など広範な業種に恩恵がある。
特に都市圏外の地方自治体にとっては、短期間に集中的な人流を呼び込める貴重なイベントであり、花火大会が果たす役割は観光政策上も無視できない存在である。地域住民にとっても、花火大会は文化的な共有体験であり、単なる娯楽にとどまらない価値を持っている。
花火の再生に向けた道筋は 官民の連携と「縮小開催」モデルに注目
現場では再生の兆しも見え始めている。一部自治体では、観覧エリアを有料指定席に限定することで安全確保と収益化を両立させ、赤字リスクの低減を図る動きが進んでいる。また、協賛企業との協力による事前PRやクラウドファンディングの活用も成果を上げつつある。
国土交通省や観光庁による地方イベント支援の補助制度も一部で活用され始めており、官民一体となった持続可能な開催モデルの構築が鍵を握る。
花火は「消えゆく芸術」ではない。次の時代へとつなぐ手立てが今、各地で模索されている。