中国のAI企業DeepSeekのモデルに対する使用制限が世界中で拡大している。データ流出のリスクや知的財産の問題が浮上し、各国の政府や企業が警戒を強めている。この動きに対し、各国がどのような対策を講じるのか、その対応が今後のAI市場の行方を左右しそうだ。
広がる「DeepSeek」の使用制限
Bloombergによると、各国の企業や政府機関がDeepSeekのAIモデルへのアクセスを制限する動きを強めていることがわかった。特に政府関連の企業を中心に「数百社」が接続を遮断。サイバーセキュリティ企業アーミスによれば、同社顧客の約7割が制限を求め、ネットスコープの顧客の52%が完全遮断を要請している。
データ流出リスクへの懸念
DeepSeekのプライバシー規定によると、同社はデータを中国のサーバーに収集・保管し、法的係争も中国の法律に準拠するとしている。また、AIの学習目的でユーザーの入力データやチャット履歴を収集し、公的機関と共有する可能性があることが明記されており、安全性への懸念が高まっている。
欧州の規制当局も警戒
欧州では、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)がDeepSeekに対し、同国の個人データ取り扱いに関する情報提供を要請。イタリア当局もデータの中国送信の有無について説明を求め、20日以内の回答を要求している。
オープンAIのデータ不正入手疑惑
米国では、DeepSeekがオープンAIの技術データを不正に取得した可能性が浮上。マイクロソフトのセキュリティ研究者は昨年秋、DeepSeekと関連のある人物がオープンAIのAPIを利用し、大量のデータを取得していたことを確認したとされる。オープンAIの規約違反の可能性があるとして、現在調査が進められている。
トランプ政権でAI政策を担当したデービッド・サックス氏は、「DeepSeekがオープンAIの技術を模倣した証拠がある」と述べており、知的財産権の侵害問題も浮上している。
台湾政府も使用禁止を勧告
台湾のデジタル発展部は1月31日、DeepSeekの生成AIについて「台湾の情報セキュリティを危険にさらす」と指摘し、公的機関やインフラ事業者に使用しないよう勧告。安全保障上のリスクを考慮し、政府主導で対策を強化している。
DeepSeekの台頭と国際的影響
DeepSeekはオープンソースのAIモデル「R1」を発表し、その性能がオープンAIやグーグルの最新技術に匹敵するとされている。特に、開発コストが米国企業の10分の1という点が注目されているが、この急成長が米国の技術優位性を脅かすとの見方もある。
IGアジアのマーケットストラテジスト、ジュンロン・イープ氏は、「DeepSeekが米国の大手AI企業にとって代わる存在となるかは不透明だが、短期的には市場に大きな影響を与えている」と指摘する。
DeepSeekの成功はAI業界に新たな競争をもたらす一方で、データ流出や知的財産権の問題を巡る議論を加速させている。各国政府や企業の対応が、今後のAI市場の行方を左右することになりそうだ。
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