SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の17ゴールのうち、企業が昨今、力を入れ始めているのが「気候変動」(温室効果ガスの削減)への取り組みだ。ただ、世界各国の温室効果ガスの削減に向けた成果は決して順調ではなく、削減目標を上方修正する必要性に迫られている。
温室効果ガスの削減目標を上方修正する必要性
2015年12月に採択されたパリ協定では、産業革命以前に比べて、世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるという目標が示された。そのためには、2030年までに2010年比でCO2排出量を約45%削減する必要がある。これに向け、各国の企業はESG経営に取り組んでいる。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、ESG経営はこれらを重視する経営のことだ。ESG経営は、投資家も重視する傾向が強まっており、各企業は自社の取り組みをサステナビリティレポートやESGレポートとしてWeb上で公開している。各企業が社会や環境に対する社会的責任として、どのような役割を果たしているのかについて、情報を開示する必要性が高まってきているのだ。
主な温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスがあり、もっとも温暖化に影響を及ぼしているのが二酸化炭素だ。温室効果ガスは赤外線を吸収し、再び放出する性質があり、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってき大気を暖める「温室効果」を発生させる。
温室効果ガスの削減に、各国は動き出しているが、その取り組みは順調とはいえない。2021年、英国のグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)では、気温の上昇を1.5℃以下に抑えるという目標には程遠いという現状が示され、このままいくと、今世紀末までに産業革命前と比べた世界の気温上昇が2.7℃に達する可能性が示された。
ある日本のコンサルタント会社の担当者は、温室効果ガス削減の現状について、次のように語った。
「パリ協定の1.5℃目標を達成するには、2030年に46%(2013年度比)の温室効果ガスを削減する必要がありますが、そのためには、2020年から毎年7.6%の削減を10年間続ける必要があります。2020年はコロナ禍で経済や人の動きが止まりましたが、8%しか減らすことができませんでした。つまり、その時と同じような減らし方を今後10年間続ける必要があるのです。COP26、COP27では、これに対する議論が真剣に行われましたが、現在のまま進んでしまうと、かなり危機的な状況で、2050年のカーボンニュートラルはかなり達成が難しい目標となります。各国が目標を上方修正しないといけない状況です。」
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることだ。日本政府も2020年、当時の菅義偉首相が所信表明演説において、2050年のカーボンニュートラル実現を目指すと宣言している。
地球温暖化による影響を気象庁が予測
現状でも、地球温暖化による自然災害は多発しているが、パリ協定の目標が達成されたとしても、さらに地球環境が悪化することは避けられない。では、どの程度の影響があるのだろうか?
これについて気象庁と文部科学省は2020年12月4日、日本の気候変動について、これまでに観測された事実や、今後の世界平均気温が2℃上昇シナリオおよび4℃上昇シナリオ)で推移した場合の将来予測を、「日本の気候変動2020」という報告書で公開した。
2℃上昇シナリオは、21世紀末の世界平均気温が、工業化以前と比べて0.9~2.3℃(20世紀末比べて0.3~1.7℃)上昇する可能性の高いシナリオで、パリ協定の目標が達成された気候の状態に相当するという。
4℃上昇シナリオは、21世紀末の世界平均気温が、工業化以前と比べて3.2~5.4℃(20世紀末と比べて2.6~4.8℃)上昇する可能性の高いシナリオで、現時点(2020年当時)を超える追加的な緩和策をとらなかった気候の状態に相当するという。
それによると、2℃上昇シナリオでは、21世紀末の日本の年平均気温は約1.4℃上昇し、4℃上昇シナリオでは約4.5℃上昇するという。猛暑日の年間日数は2℃上昇シナリオでは約2.8日増加し、4℃上昇シナリオでは約19.1日増加すると予測。熱帯夜の年間日数はそれぞれ約9.0日、約40.6日増えるという。
降水量に関しては、1日あたり200mm以上の降水量の年間日数は、2℃上昇シナリオでは約1.5倍に増加し、4℃上昇シナリオでは、約2.3倍に増加するとしている。
日本沿岸の平均海面水位は、2℃上昇シナリオでは約0.39m上昇し、4℃上昇シナリオでは約0.71m上昇すると予測している。
気象庁と文部科学省が公表した「日本の気候変動2020」(詳細版)の中に、次のような記述がある。
「2015年に開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、『世界的な平均気温上昇を工業化以前と比べて 2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する』という将来の気温上昇予測と対策の長期目標が示された。これは、それまでに示されていた温室効果ガス排出量削減目標以上の排出削減努力を各国に求めるものであり、また、非常に大きな努力を行ったとしても1.5℃の気温上昇を避けるのは難しいということも暗に示していると言われている。」
つまり、世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというのは、決して前向きな目標ではないということだ。カーボンニュートラルは、もはや努力目標ではなく、具体的な行動に移すべき喫緊の課題になっていることを認識すべきだろう。