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由屋るる犀々

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金沢の宿 由屋るる犀々 藤橋由希子|今だから言える旅館経営で最も大切なこと

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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由屋るる犀々(ゆうやるるさいさい) 藤橋由希子さん

コロナ禍の長期化で多くのホテルや旅館が厳しい状況にされられる中、収束後に向けて、「より多くのお客さまをお迎えできるよう万全の準備を」と奮闘しているのが金沢市は清川町で営業する旅館、由屋るる犀々(ゆうやるるさいさい)の藤橋由希子さんです。両親から受け継いだ事業を自分らしく発展させていく藤橋さんに、古都金沢で旅館を始めた経緯やステークホルダーに対するお話を伺いました。

古都の風情と人のあたたかさを感じる宿、由屋るる犀々

--由屋るる犀々(ゆうやるるさいさい)はどのような経緯でスタートしたのでしょう?

私の両親は1974年からビジネスホテルを経営していました。創業時の客室は30室。その後もう一棟建て、最大250室まで事業を拡大しました。

同じ宿泊業といっても、旅館とビジネスホテルは全く違い、ビジネスホテルの経営には効率性が求められます。稼働率を高め、できるだけ少ない人員で業務を効率的にこなす必要がありました。事務的な作業をスピーディに済ませた先にようやくお客さまとの関わりがあるので、お客さまとじっくり向き合う時間を捻出するのはそう簡単ではありません。

当時の私は目の前の業務をこなすことに追われ、お客さまのためにもっとできることがあるはずなのにと思い、日々もどかしさを感じていました。

そんな時、廃業してそのままになっていた料理旅館を見つけたのです。それが当館の前身である「きよ川」です。

とても良い物件でしたので、当時弊社を経営していた両親が、ビジネスホテルと旅館というロケーションもタイプも異なるサービスが提供できると、事業の相乗効果を見据えて買取ることを決め、リノベーションをして、平成20年4月に「由屋るる犀々」をスタートさせたのです。

--川沿いに建つ由屋るる犀々は、金沢の中心地からさほど離れていませんが、非常に静かで落ち着いた空間ですね。

ありがとうございます。「きよ川」の美しい日本建築の魅力をできるだけ残した造りや、川に面した客室から、古都清川の独特の魅力を味わっていただけると思います。ご来館いただいた時には、由屋るる犀々の「接客より一歩踏み込んだお節介やフレンドリーさ」もぜひ楽しんでいただきたいですね。

現在「三密」として控えるよう求められている人と人との近さが、私たちの旅館が提供できる価値ですし、その価値を発揮するために由屋るる犀々を開業しましたので、早くコロナが収束し、多くのお客さまにお越しいただけるようになることを心待ちにしています。

由屋るる犀々の客室からの眺め

清川の流れの向こうには遠くの山々が眺めることができる

 

リーマンショックで気づいた経営者として大切にすべきもの

--由屋るる犀々を始めてみていかがでしたか?

自分が大事にしたいものを大切にできるようになったので、非常に嬉しかったですね。2015年にビジネスホテルを売却してからは、由屋るる犀々に集中できるようになったので、よりお客さまとのふれあいを楽しみながら経営できるようになりました。由屋るる犀々は15室しか客室がありませんので、1人のお客さまにたっぷりと時間をかけることができます。それは一方で、「時間がないからできません」という言葉が全く言い訳にならない厳しい環境ともいえますが、まさに私が求めていたものでした。ビジネスホテルを経営していた時に「もっとやれたのに」と悔しく思っていたことを、思い切りやることができています。今の課題は、いかに効率性を上げるかではなく、どこまでお客さまに心を配れるかです。私をはじめ、宿で働く従業員たちが優しい気持ちを持っていないと心配りはできないと思うので、皆が優しい気持ちになれるような環境づくりを心がけています。

業員の細やかな気遣いを大切にする由屋るる犀々

15室限定だから、従業員の細やかな気遣いができる

--旅館を経営する中で大変だったことは何でしたか?

由屋るる犀々を開業してすぐに起こった2008年のリーマンショックですね。正直な話、倒産寸前までいきました。経験もスキルも不足していた当時の私は、従業員を不安にさせないよう無理に明るく振る舞うのが精一杯で、力強いリーダーシップを発揮することができなかったんです。何とか一番苦しい時期を乗り越えられる目処は立ったものの、それを喜ぶというより、気持ちが沈んだままトンネルを抜けた感じでした。

おそらく従業員は社長の娘である私に期待してくれていたと思いますが、その期待に応えられなかったことが非常に申し訳なくて…。このままじゃいけないと思って、社員とパートあわせて80名に一人ずつお詫びをしたんです。「これからは気持ちを切り替えるので、協力してほしい」と自分の気持ちを正直に伝えました。すると多くの人が、「私も頑張ります」などの優しくて力強い言葉をたくさん掛けてくれたのです。

それがとても嬉しく、全部自分が何とかしなくちゃ、という過度なプレッシャーから解放されたような感覚でした。もっと皆を信頼し、頼るべきところは頼って、一緒に頑張っていけばいいんだと気づかされましたね。そして宿を経営する立場として、「今後何かあったら従業員を絶対に全力でサポートする!」という気持ちを強く持つことができました。リーマンショックは非常に辛い体験でしたが、経営者として何を重要にすべきかを明確にしてくれたとても意義深い出来事だったように思います。

由屋るる犀々のステークホルダーへの向き合い方

社員・家族

「一番大切にしているものは?」と聞かれたら私は、「従業員」と答えます。旅館を営む身としては、本来はお客さまと言うべきかもしれません。しかし、実際にお客さまを喜ばせるのは従業員です。会社から大切にされた従業員は、会社の思いを実現し、お客さまを大切にしてくれると信じています。ですから、私は従業員が働きやすい環境をつくることを最重要課題としています。

社員・家族との向き合い方
王生(いくるみ)夫妻へ

私がホテルを営んでいる頃に入社し、ずっと支えてくれてきたご夫婦です。飲食店経営の経験があられるので、経営の難しさをよく理解しており、率先して行動してくださいました。ご主人は宿の板長に就任し、由屋るる犀々の料理の評価をしっかり作り上げてくれた功労者です。仕事が大好きで、体力・気力ギリギリまで頑張るという人柄から皆の信頼を集めていました。ですが、2018年頃から体調を崩しがちで、緊急入院をすることもありました。残念なことに、肺がんだったのです。

 

ご夫婦と相談し、しばらく出勤せず、休養いただくことになりました。電話すると「早く包丁を握りたいよ」と元気に話してくれていました。非常に苦しい状態だったにもかかわらず、宿の様子も気にかけてくれ、電話で仕入れの指導もしてくれていたのです。早く復帰してほしいと何度思ったか分かりません。しかし、2021年の1月、帰らぬ人となってしまいました。

 

こんなに心細い気持ちになるなんてと思ってしまうくらい、彼は私や宿にとって大きな存在でした。もう一緒に働けないことが本当に悲しいですが、最期の瞬間まで、由屋るる犀々の従業員として生涯現役を貫くことができるように道筋をつけて差し上げることができたのは、せめてものことだったのではないかと感じています。

 

仕事が大好きでずっと支えてくれていた彼や奥さんに少しでも恩返しを、という思いでした。奥さんは調理補助として今も貢献してくださっています。板長のような気持ちで私たちを心配し、改善案も提案してくれ、本当に感謝しています。相談してくれたことには全て誠意を持って対応したつもりですが、私に遠慮して当時言えなかったことはないかと今でも気になります。もう過去のことなので遠慮なく教えてほしいですね。

加賀野菜や地元素材の会席風の朝食

加賀野菜や地元で生産された食材を厳選し、手間を惜しまず作られた会席風の朝食

松本夫妻へ

旦那さんは前述の王生板長が病気で倒れた時に、自分の店もあるのに、空いた時間に助っ人として入ってくれた板前さんです。助っ人期間にうちの女将と恋愛関係になり結婚して、入社してくれました。現在は板長を目指していて、今後の活躍をとても期待している人です。

 

奥さんは産休、育休と1年以上休みをとっていましたが、今はパートとして復職しています。育児の関係で突発的に休むこともあるので女将は今のところ難しいですが、夫婦ともにこれからの由屋るる犀々を作っていく人材になることを期待しています。私もできる限り成長をサポートしていきたいと思っています。

 

聞いてみたいことは、少しドキドキしますけど、「仕事は楽しい?」という質問ですね。あえてストレートに聞いてみたいです。

夫へ

私は両親が創業した事業を引き継いでいるので、家業としての仕事に強い思い入れがあります。夫はその熱量を理解し、私の思いを尊重してくれる大事な存在です。私が何かしたいと言ったときに反対されたことがありません。板長が体調を崩した時の対応についても、「功労者だからな」と言って理解してくれました。

 

経営は時に上手くいかないこともありますが、決して私を責めず、「ご苦労さん」とねぎらってくれます。そんな優しい人だからこそ衝突しないでやっていけるのだと思います。仕事面については、お互いの得手不得手を分かっているので、例えば数字系は彼に、現場のことは私にというように役割分担ができています。社長である彼と常務の私が揉めているようでは、従業員のことも大切にできません。いつも私を理解し、尊重してくれてありがとうと伝えたいです。

 

聞いてみたいことは、「本当は何をしてもらいたかってんろ?」ですね。彼が社長として私にしてほしいことがあるかどうかが気になるので。

ラクシュミー社会保険労務士事務所 小矢田由希さんへ

「従業員を何よりも大切にしたい」という私たちの価値観を深く理解したうえで様々なサポートをしてくれる社労士さんです。彼女自身、人を非常に大事にする方で、従業員との面談も親身に行ってくれます。

 

先述した板長の件でも、奥さんやご家族にとって最適な選択肢を面談で奥さんとじっくり話し合ってくれました。会社にとっては、病気で働けない状態の板長を雇用したままにしておくことは社会保険料も発生し続けることになるため、財政的な面では難しい選択でした。

 

会社に負担がかかる選択なので言い出しにくかったはずですが、小矢田さんは「これがあのご家族にとって一番良い選択です」という提案してくれました。その提案のような選択肢を、勇気を持って正直に話してくれた彼女には非常に感謝していますし、より一層彼女を信頼するきっかけになりました。私たちの価値観を尊重してくれて本当に助かっています。

 

そんな彼女に聞いてみたいことは、「社労士としてうちの会社にシビアに点数をつけるとしたら何点?」という質問です。ここはぜひシビアに、重箱の隅をつついてもらいたいですね(笑)。

露天風呂付部屋のスイートルーム

爽やかな風を受けて過ごす、露天風呂付部屋のスイートルーム

 

お客さま

由屋るる犀々に来てくださる全てのお客さまに感謝をしています。金沢の魅力に浸り、非日常の贅沢な時間をお過ごしいただけるよう従業員ともども心を込めておもてなししたいと思っております。

お客様との向き合い方
常連のAさまへ

東京で会社経営をされている方で、プライベートでも会社の慰安旅行でも由屋るる犀々を利用してくださっています。Aさまには宿としての対応力をとても鍛えていただきました。従業員の中には、ご飯の盛り方をAさまに注意されて以来、盛り付けの際にはその言葉をいつも思い出して気をつけているという者もいます。目についたことを無視するのではなく、実際に口に出して教えてくださるお客さまの存在は私たちにとって非常に貴重でありがたいものです。

 

Aさまは食通で、決まったメニューではなく、「美味しいものを食べさせて」と仰るので、私たちはいつも頭を悩ませています(笑)。うちの板長の料理を気に入ってくださっており、和食メインの私たちに「次は洋食を食べたい」と信じられないことを仰るんですよ。そういったハードルの高いリクエストに、できる範囲で一生懸命お応えすることで、宿としての実力も上がっているのではないかと思います。

 

いつも「美味しかったよ」と仰ってくださるAさまには従業員ともども深く感謝しています。

 

取引先

取引先との向き合い方
寿司割烹 志げ野さんへ

板長が12月に緊急入院したため、2019年の年末年始にお客さまがお食事の予約をキャンセルしないですむように、予約を引き継いで下さったのが志げ野さんです。その時ご予約いただいていた多くのお客さまをたくさん引き受けてくださったのが志げ野の大将です。事情を話すと「うちにできることなら!」と二つ返事で快く協力してくれました。

 

お客さまにご負担をおかけしてしまったにもかかわらず、みなさん口を揃えて「あのお店は良かった。紹介してくれてありがとう」と仰ってくださったのは、志げ野の料理やサービスが素晴らしいものであるおかげです。私たちの緊急事態を救ってくれ、本当に感謝しています。

北形青果(青果店)と一念大助(鮮魚店)さんへ

うちの前板長は一途なところがあったので、ここ!と決めたらとことんその会社とお付き合いする傾向がありました。その板長が多大な信頼を寄せていたのが、北形青果(青果店)さんと一念大助(鮮魚店)さんです。困った時には助け合う仲で、非常にありがたく思っています。実はまだ私の口からは前板長が亡くなったことをお伝えできていないのが気がかりなのですが…。今後も由屋るる犀々をどうぞよろしくお願いしますと言いたいです。

檜の香り漂う浴場

檜の香り漂う浴場は、天気がいい日は全開放でくつろぎの時間を

 

地域社会

取引先との向き合い方
一般社団法人 全日本ホテル連盟さんへ

由屋るる犀々の前身がビジネスホテルだったこともあり、今もずっとお世話になっている団体です。全国の同業者の方と交流できる機会や、勉強会開催など、全国組織の業界団体だからこそできる活動に非常に助けられています。設備劣化や融資、従業員教育といった旅館を経営するにあたって避けられない問題や悩みの相談にたくさんのっていただきました。

 

また、以前は中部支部の支部長を任せていただいたり、今は外国人就労に関わる事業を担当させていただいたりと、こんな私に多くの裁量を持たせてくれるのも懐の深さを感じます。私は好奇心旺盛で新しい取り組みにも積極的なタイプなので本当に嬉しい限りです。おかげさまで、広い視野で物事を見ることができるようになりました。

 

私たちが以前経験した障がい者と一緒に働く取り組みを、全日本ホテル連盟さんを通して全国に広めていけるのでは?と大胆な思いを持つことができているのも、全日本ホテル連盟さんの存在あってこそです。ご自身もホテルを経営しながら連盟の会長も務める清水嗣能さんには特にお世話になっていますので、私や由屋るる犀々にしてほしいこと、期待していることなどがもしあれば伺ってみたいです。たくさん成長の機会をいただいたので、少しでも貢献していきたいと思います。

金融機関

北国銀行 笠市支店さんへ

リーマンショックで私たちが本当に大変だった時から色々な良い提案をいただき、非常に感謝しています。また、他県出身の夫が近くに相談できる存在がいない状況だった時、若手経営者や2代目経営者の人材育成プログラムに参加させてくれたこともありがたいと思っています。同年代の経営者仲間ができたことは夫にとって非常に心強かったようです。質問してみたいことは、「うちは健全ですか?」ということでしょうか(笑)。これからもよろしくお願いします!とお伝えしたいです。

金沢の清川のほとりに佇む由屋るる犀々の外観

<企業情報>

由屋るる犀々

http://www.yuyarurusaisai.jp/

金沢の宿 由屋るる犀々

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ライター:

1991年東京生まれ。中央大学法律学部出身。卒業後は採用コンサルティング会社に所属。社員インタビュー取材やホームページライティングを中心に活動中。

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