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株式会社トイトマ

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国連の場で民間企業の視点からSDGs(持続可能な開発目標)のアクション 村田敏彦×山中哲男

ステークホルダーVOICE 地域社会
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今年、2020年は「77ACTION」というイベントの開催が決まっている。ニューヨークの国連本部を舞台に、日本中から選ばれた77に及ぶ多数の日本企業からスピーカーが派遣されてプレゼンテーション・ディスカッションに参加する。4月から合計3回実施される予定だが、いずれも国内外のメディアを通じて多数の報を発信することが決まっている。

この「日本初ソーシャルインパクト」の趣旨に賛同し、企画に参加しているのが、国連本部での経験30年以上の村田敏彦さん。村田さんに国連と日本の今後の関係について聞いた。 

 

日本が輩出した、貴重なベテラン国連関係者のこれまでの歩み

77ACTIONでは計3回にわたって77社の民間企業が国連に登壇予定!

 

山中哲男(以下、山中):まずは、村田さんのこれまでの国連の活動歴について教えてください。どんなきっかけがあったのでしょうか?

 

村田敏彦(以下、村田):私の専門分野はコミュニケーションです。その中でもインターナショナルコミュニケーション、そして国際開発の分野に長年携わってきました。そもそも国連に入ることになった経緯は、1980年代に遡ります。あの頃は今で言うところの持続可能な開発(SDGs)といった概念はまだない時代でした。

私としては発展途上国にICTを活用して開発支援をしていくということをやっていけたらと思いまして、スタンフォード大学大学院で「国際開発とコミュニケーション」といったプログラムを学んでいたのですが、そこでジャック•リングさんという中国人の講師に出会いました。彼は当時、ユニセフのニューヨーク本部で広報局長を勤めていたのですが、サバーティカルで大学院に教えにいらしていたのです。

スタンフォード大学大学院のプログラムを通して、発展途上国のプロジェクトに携わっている専門家の方々と接する事が出来ました。そして実際に講義の中で、ジャック・リングさんが「この中でユニセフに興味のある院生はいますか?」とお聞きになったので、手を挙げたのです。私としても自分の学んだことが実際に世の中の役に立つという、やりがいが欲しくて、JPOとしてユニセフに行きました。

このJPO派遣というのは、国際機関の最初の3年は日本政府が私の給料を支払い、その間にきちんと仕事が出来ていたら、その後、正式に国際機関職員として採用してもらえるという制度なのです。

ユニセフでは、本部のプロジェクトサポートコミュニケーションというセクションで働きました。

 

山中:そこではどういった活動をされていたのですか?

 

村田:ユニセフのプロジェクトが円滑に実施できるよう、またその地域に持続的に根付くよう、コミュニケーションの側面からプロジェクトを支援するという仕事です。

ユニセフには予防接種や飲料水用井戸掘りプロジェクト等、発展途上国に住む方々が健康的に暮らせるように様々なプロジェクトがありますが、これらプロジェクトをただ実施しただけでは一時的な効果しか望むことができません。そうではなく、井戸を掘るのであれば、その井戸がユニセフの職員が現地を去った後も、きちんと地域の人々の生活に根付き、持続的に使われるものにしなければならないのです。

その際必要になってくるのが、現地の方々との密なコミュニケーションです。一体どうやったら村の人々に井戸の有効性を理解してもらえるのか。現状の数km 先の池から水汲みをしなくてもよくなることのメリットを一人ひとりに理解してもらうにはどうすればよいのか。コミュニケーションなくしてはどんなプロジェクトも根付くことはありません。そういったやりがいのある仕事につきました。

 

山中:それで3年経ち、ユニセフに就職したのですか?

 

村田:実際に3年経ったところで、日本政府から 国連食糧農業機関(FAO)に移ってみないかと打診がありました。それでFAOのニューヨーク事務所で働くことにしたのです。FAOでの私の仕事は、FAOを代表して、国連の経済社会理事会や総会の各委員会に出席して、FAO関係議題を調整していくというものでした。というのも、国連加盟国の代表の方々は外務省の官僚、つまり外交官ですので、食料安全保障問題の専門家ではありません。

そのため、例えば国連で水産資源を保護する決議案を審議する際には、その決議案の妥当性や有効性をスペシャリストとして、FAO本部(ローマ)で確認調整する事が求められるのです。

他の国連機関との調整も含む、この種のローマとニューヨークの間を繋ぐ仕事に、4~5年前まで30年間程従事してきました。

 

山中:さながらミスターFAOという立場だったのですね。

 

国連は決して、「神棚の上」のような組織ではない? 

山中:それにしても国連は、日本に暮らすボクらからすると、中が見えない場所というイメージが強いんですよね。

 

村田:確かにそんなイメージがありますよね。外交官が出入りする所というイメージですね。でも実際は、国連はもっと日本のNGOや民間企業の方々にとっても、身近な関連のある場所なんですよ。

例えば、WHO(世界保健機関)は健康問題を、UNESCO (国連教育科学文化機関)は教育や文化を扱っています。私が所属していたFAO(国連食糧農業機関)は食糧問題ですね。これらはどれも、人間の日常的な活動に深くかかわっている事ばかりですよね。

 

山中:そう考えれば、国連って身近なところなんだってわかりますよね。

 

村田:日本国民がより国連の実際の活動内容を理解すれば、国連を活用できるチャンスだってもっと増えていくと思います。

 

山中:ボクと村田さんが初めてお会いしたのは2018年の夏だったでしょうか。

 

村田:最初は共通の知り合いが紹介して下さったんですよね。最初は銀座で3人でお茶をしましたっけ。次に山中さんがコーディネートしていらっしゃる、若手官僚の方々と民間企業の方々との共同プロジェクト「官民連携推進Lab」にお誘いいただいて、それが2018年でしたよね。そこから、お互いの理解が深まり、私からせっかくだからニューヨークの国連本部を見てみませんかとお誘いしました。

 

山中:そうでした。実際に国連を見学したら、一気に全体像が見えてきたと言うか、自分として何をやらなければならないかが分かったんです。村田さんと話をする中で、国連の可能性、 日本の可能性を話し合い、日本が国際社会で果たせる役割はもっとたくさんあるよねと意気投合できたんです。

そのころからいろいろなことをお話ししていくうちに、村田さんは日本と国連本部との懸け橋を開拓しようとしてくださっているレアな方だと感じたんです。

 

村田:私は逆に、山中さんのような若く、優秀な方にどんどん国連の場を通して活動していただきたいんです。日本は素晴らしいポテンシャルがありますから。例えば中小企業だって日本は凄いんです、下町ロケットじゃないですけど(笑)。そう考えると日本の皆さんには、国連をもっと知っていただくだけでなく、日本が国連に貢献出来る素晴らしい要素を紹介していただくことも大切です。

 

日本人がじゅうぶんに認識していない、日本ならではの良い

山中:ボクは海外で仕事をするようになったり、海外に行く機会が増えるようになってから、日本のいいところが一気に見えてきたんですよね。世界全体の中で自分の国を見つめたら、「日本にはいろいろな役割があるんじゃないかな?」「もっと世界でやったほうがいいことがあるんじゃないかな?」と感じるようになったんですけど、村田さんはいかがですか?

 

村田:私は日本にはちょこちょこ帰っていますし、フォローもしてます。日本人はなんにでも真面目に、一生懸命取り組みますよね。国連システムの場も含めて、どんなことでも真面目に考えます。

 

山中:国連のような外交官が集まる場所でも、日本人のまじめさはとても目立ちますか?

 

村田:目立ちますね。国連の加盟国は193もありますが、日本の代表は国連の会議の前にどの国の代表よりも資料を読み込んできますよ。まじめで一生懸命です。

 

山中:まじめだから、日本の信用力は世界のどこに行っても高いですよね? ボクも海外でプロジェクトをやっているから実感します。その信用力は、昔の方々がまじめにやってきたからでしょうけど、今のボク達の世代はそのおかげでいい思いをさせてもらっていると感じます。

 

村田:日本のパスポートが世界で最も多くの国にビザ無しでも受け入れられるのは、そのようなバックボーンがあるからなんですね。それと、上の世代の信用力という意味では、やはり日本製品の役割も大きかったですね。最近の日本製品は元気がない様に感じられるのが残念です。

 

山中:文化面でも、日本には大きなポテンシャルがあると感じます。今、モノづくりの話をしてくださいましたけど、日本のモノづくりにも日本の文化は入っていますよね?

たとえばシャワーヘッドを作るとき、日本人は使い手のことを考えながら製造します。角度をわずかに変えるだけで、水が体に適切に当たるようにつくることを追求するのは相手を思いやる心も入っていると思いますよね。

 

村田:日本製品の使いやすさには定評がありますし、安全性や耐久性に対しても折り紙つきですよね。そこには日本人独特の思想が詰まっていますし、思いやりも入っていると感じますよ。

 

山中:ボクの感じていたことを適格に指摘してくださってうれしいです(笑)! ボクはヨーロッパで仕事をすることが多くなったんですけど、個人と個人がぶつかりすぎると共存しにくいですよね。自分の意見を言いながらも、調和していかないといけない。そこで役立つのが、日本の独特の思いやりがもたらす調和の精神じゃないかと思うんです。

 

村田:今の時代はネットがありますし、意見をだれでも発信できますね。しかし行動を伴わないといけませんし、周囲と協調して進めていく必要があるでしょう。そのとき、日本人の思想はとても役に立つでしょう。日本はチームプレイに長けている国ですし課題解決のために調整役を引き受けていくことが望ましいと感じます。

 

世界で信用を勝ち得てきた日本。しかし課題も当然ある? 

 山中:長い時間をかけて養われた日本の信用力ですけど、最近ヨーロッパあたりに行くと「ちょっと落ちてるね」という話を聞きますね、残念な話ですけど。

 

村田:先ほど、日本製品の安全性や耐久性の話が飛び出しましたけど、それを通じた影響は弱っていますよね。50年後も同じことを言われるためにはどうしたらいいのか、それは優先課題でしょうね。今は転換期じゃないでしょうか。

 

山中:もちろん、日本製品だけに課題があるわけではありませんよね? モラルの問題とかいろいろとあるのでしょうけど。たとえば文化面ではいかがでしょうか?

 

村田:私の世代は、子供のころにハリウッド映画やアメリカ製のTVドラマを見て育ちました。あの文化的影響は大で、すっかりアメリカの生活スタイルに憧れを持ちました。ああいった文化面でのインパクトは、日本製品の信用力とはまた違ったステータスがありました。ああいう文化的影響力も大切です。当時は日本の文化といえば、お茶やお花や着物……と、限られたものばかりでしたし。

 

山中:ニューヨークからご覧になると、日本の文化面での影響はまだ弱いでしょうか?

 

村田:最近はだいぶ変わってきました! ニューヨークのバーでずっと年下の現地人と話していると、彼らのほうが私よりもAKB48やアニメソングにずっと詳しいんですよ。

 

山中:それはうれしい驚きですね(笑)!

 

村田:まったくですよ。アメリカの若い世代から、欅坂46やBABYMETALの顔ぶれを生粋の日本人の私が教えてもらうとは(笑)。ただ、やはり将来を考えた時、日本はもっと情報発信が必要でしょうね。

 

山中:国連の中でも、日本人は少ないですよね。

 

村田:30年以上前から日本は、国連に分担金はたくさん出してきたんです。でも国連の日本人職員は足りていません。私がなぜ日本の国連活用の必要性を痛感しているかというと、この点にも関連があります。

私は国連食糧農業機関 (FAO)の代表として、いろいろな国連の会議に参加してきました。FAOの本部はイタリアのローマにあるのです。私がニューヨークで働いてる事務所は言わば出先機関。これは外交官の方のように国を代表している訳ではありませんが、FAOという国連機関を代表している立場です。

様々な決議案を加盟国代表の方々が作成していくプロセスを身近に見た経験から、国連機能の活用がSDGsと関連して重要な課題であるという考えを持つようになりました。

 

山中:国連の話になると、30年以上前から、延々と言われていることとして、日本は莫大なお金を拠出しているのに、国連職員が少ない、あるいは国連への影響力が小さいという話がありますよね。

 

村田:そうです。ここ30年間そのような話をメディアでしばしば見かけますが、例えばカナダはPKO(平和維持活動)に非常に力を入れている国です。またスカンジナビア諸国は、人権問題に力を入れています。各国は自国が力を入れている分野にお金を集中し、人を配置することで、その国の考え方を国連を介して世界に波及させようとしています。

 

村田:日本も何が優先課題かを明確にして、世界に何を訴えていきたいのか、世界に何で貢献していきたいのかを明らかに出来たら素晴らしいと思います。

 

山中:日本は災害大国だから、災害対策などで舵取りを担えるとも思うのですが。

 

村田:せっかくSDGsだ、持続可能な開発だということを声高に叫べる時代になったのですから、民間企業の方々にも協力して頂いて、民間企業が自分達はここをやりたい、あそこをやりたいと、社会課題解決のためのルール策定に案を出してもらう、これができると大きく現状は変わるように思います。

企業各社に申し上げたいのは、政治と経済は別だからということで目を背けるのではなく、国連という場に関心を持っていただきたいのです。

 

国連を活用して日本全体の未来を明るくするために

山中:最近は、各国のNPOやNGOが国連を舞台に活動して脚光を浴びることも増えた気がしますが、どのようにお考えですか?

 

村田:そうですね。先ほども申し上げましたけれど、昔と比べて大幅に民間の方でも国連でいろいろな活動をしやすくなりました。たとえば企業の場合でしたら、ビジネスで成功を収めるために大切なのはルール設定ではないでしょうか?

日本企業が採用して使ってきたルールを、もし世界基準、デファクトスタンダード化できたらどうでしょうか? 日本企業の世界進出が一気にはかどるはずです!

 

山中:それなのに、なかなか日本の企業は腰をあげませんよね。だから、ボクらが後押しする環境や機会をつくることで、日本企業全体が動き出していく可能性がありますよね。

 

村田:おっしゃる通りです。国連の本部という場所を活用しながら「さまざまな分野で、われわれ日本人はこんなにも世界にいろんな貢献ができるのか」という手ごたえを感じていただく機会を提供したほうが効果的でしょう。日本には、世界に通用するソリューションが豊富にあるわけですから。

 

山中:今ボクが企画している「ソーシャルインパクトイベント」では、「アクション」をテーマにしたいと思っています。情報が手に入る時代ですけど、その先に何かを行動するフェーズが必要ですからね。そのようなアクションがきちんと起こるような「場づくり」を目指しています。

 

あとは分野別に国内の企業家・活動家の皆さんに、各分野の方々にたっぷりとスピーチをしていただく予定です。「課題」も忘れずに語っていただきます。さまざまなストーリーが公開されれば、それを聞いて下さった方々がいろいろなアクションを起こす可能性があります。「応援したいな」ですとか「自分も何かしようかな」と感じたりもしてくれますよね。

 

村田:いいですね! 国連本部の中にスペースを用意します。国連本部の中なら、内外のメディアもたくさん招待できるので一度に大量の情報を発信できるでしょう。来場した方々はもちろんですけど、参加できなかった方々にもいろいろな事を、国連の活用方法から日本ができる世界への貢献までぜひ知っていただきたい。そして今後の社会を改善していくためのヒントをつかんで、ぜひ行動に移していただきたいですね。

 

村田敏彦

東京生まれ。上智大学大学院コミュニケーション修士、博士後期課程修了。米国スタンフォード大学大学院コミュニケーションと発展途上国開発修士。ユニセフ本部勤務ののち、国連食糧農業機関(FAO)対国連本部ニューヨーク事務所で連絡調整行政官として勤務、政府間、国連機関間会議にFAOを代表し長年参加。現在は国連経済社会理事会・広報局公認非政府組織デジタルコミュニケーション観測機関(OCCAM)国連常駐代表。上智大学非常勤講師も務める。日本マスコミニュケーション学会会員。

山中哲男

兵庫生まれ。飲食店経営、米国ハワイ州で日本企業の海外進出支援をするコンサルティング会社経営を行う傍ら、事業創造支援をする株式会社トイトマ(前インプレス)設立し、代表取締役に就任。事業創造を専門とし、構想やアイデアを事業化する事業開発、行政が行うプロジェクト開発に関わる。街開発を行う株式会社クラフィットの代表や再生医療事業を行うヒューマンライフコードの社外取締役なども務め、多岐に渡る領域の事業創造に携わっている。また官×官、官×民の組織を越えた活動を推進する官民連携推進Lab主宰。

 

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。運営企業として累計10,000社超の、取材実積・メディア制作を経て、サステナブルな企業がステークホルダーを重視した経営を行っていることに気付く。100年以上続く長寿企業複数社の社内報・ステークホルダー取材を通じ、ポスト株主資本主義時代の経営ビジョンに開眼する。環境教育系社団法人の広報業務支援も行う。またライフワークで社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目として活動。 コーポレートサイト https://www.sacco.co.jp/

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